人間が社会生活を営む上で最もエネルギーを消費する行為は何かと問われれば、間違いなく「お辞儀」であると断言できます。
相手の社会的地位やその場の空気に合わせて背骨の角度を15度、30度、45度と瞬時に計算し、頭頂部を相手の視界に差し出すあの高度な身体操作は、僕のようなバランス感覚の欠如した人間にとっては毎回命がけの曲芸に等しいものです(もっとも、僕がこれまで人生で実際にお辞儀をした相手は、自動改札機と、風に揺れるトウモロコシの2つだけですが)。
そこで僕は、自分の代わりに完璧なお辞儀を遂行してくれる「完全自動お辞儀マシン」を自作することにしました。
開発にあたっては、僕の部屋に転がっていた最新の工学資材(針金ハンガー3本、段ボールの切れ端、そして去年の冬に買いすぎて余っていた春雨の乾燥ブロック)を惜しみなく投入しました。
背中に固定した支柱から頭頂部へ針金を伸ばし、前方に人間を感知すると、自動で針金が引っ張られて強制的に頭が下がるという画期的なシステムです(なお、人間を感知するセンサーの仕組みがどうしても理解できなかったため、最終的には「僕が相手の目を見て恐怖を感じた瞬間に、自分の左手で紐を強く引く」という完全手動システムを採用しました)。
さっそく装置を背負って町内へと繰り出すと、金属のフレームと乾燥春雨が首元に食い込み、歩くたびに春雨がパキパキと折れる小気味よい音が響きます。
これならどんな大物と遭遇しても、1ミリも動じることなく完璧な礼節を示すことができるはずです(ただし、構造上の欠陥により、一度頭を下げると背中の春雨が粉々に砕け散るため、二度と頭を上げることができない使い切り仕様となっています)。
角を曲がったところで、向こうから町内会長によく似たおじいさんが歩いてきたため、僕はすかさず左手の紐を全力で引き絞りました。
ガキッという鈍い音とともに針金がしなり、僕の頭部は猛烈な勢いで地面へと向かいました。
理想的な45度の角度をはるかに通り越し、僕の顔面は自分の膝小僧に激突する寸前の位置で完全にロックされました(厳密に言えば、紐を引くタイミングを誤って3メートル手前で発動してしまったため、おじいさんからは「突然何もない空間に向かって二つ折りに折りたたまれた不審者」として観測されていた可能性が高いです)。
足音が近づき、僕の真横で一旦止まり、そして何も言わずに去っていくのが分かりました。
僕の礼節があまりにも完璧だったため、相手は言葉を発することすらできなかったに違いありません(なお、現在もロックが解除できないため、僕はこの文章を二つ折りの姿勢のまま足の親指で書いています)。









