【研究背景】
なぜ靴下は、洗濯機にかけるたびに必ず片方だけが消失するのか。
これについて僕は、量子もつれによって片方の靴下が平行世界へ跳躍したためではないかと考えた。
この謎を解明すべく、自宅アパート(木造2階建て・日当たりは午後2時から2時15分までの15分間のみ良好)において、残された靴下を用いた検証実験を行った。
【用意した機材および資材】
・残された左足の靴下(3年前にスーパーのワゴンセールで購入した灰色無地のもの。右足との違いは特にないが、僕が「こいつは左だ」と強く信じることで辛うじて左足としての尊厳を保っている)
・割り箸(先週コンビニで冷やし中華を買った際、店員が虚空を見つめながら3膳も入れてくれたうちの最後の1膳)
・(かつて町内会の福引で3等を当てた際に獲得した)最新型扇風機(強ボタンを押すと火花が散る)
【観測および実験経過】
■ 08:00
実験開始。残された靴下の波動関数を収縮させるため、畳の上に正座してじっと凝視する。
■ 10:30
靴下との精神的同調を図るため、自らも靴下になりきる実験に移行。
灰色のバスタオルを頭から被って畳の上に横たわり、自らを「巨大な右足の靴下」と定義する。
■ 13:00
ふと「自分は靴下ではなく成人男性なのではないか」という疑念に襲われ、猛烈なパニックに陥る。
■ 15:30
事態の打開を図るべく、割り箸を両手に構えて洗濯機と壁の隙間へ接近。
(右手の割り箸を「正義」、左手の割り箸を「世間体」と命名した)
■ 15:45
「世間体」の先端に手応えを感じて引き抜いたところ、行方不明だった右足靴下を無事に救出。
(同時に、完全に乾燥して板状になった食パンの耳も1枚発掘された)
【結論および今後の課題】
靴下の消失は平行世界への跳躍によるものではなく、洗濯機と壁の隙間という局所的な暗黒領域の引力によるものだった。
目下の課題は、救出された右足と畳の上で待機していた左足との間に生じた「圧倒的な気まずさ」の解消である。
明日は二足の和解を促すため、頭の上に両方を乗せて近所のスーパーまで歩く予定だ。
(途中で大きめの犬と目が合ったら、靴下を放り出して後ろ向きに疾走し帰宅するものとする)

