先日、4億年以上前の地球に生息していた「プロトタキシテス」という巨大な化石についてのニュースを読んだ。
記事によると、この生物は高さ8メートル、幹の太さは1メートルにも達していたらしい。
発見当初は植物だと思われ、その後は巨大なキノコなどの菌類だという見方が一般的だったそうだ。
しかし最新の研究で、プロトタキシテスは植物でも菌類でもなく、既存のどの生物グループにも当てはまらない、全く未知の独自の生命系統であった可能性が高いことが判明したらしいのだ。
そして、数千万年にわたり繁栄したにもかかわらず、絶滅した後はその空白を埋める系統が現れることもなく、完全に歴史から消え去ったのだそうだ。
これを読んで、僕は完全なパニック状態に陥った。
なぜなら、この「植物でも菌類でもなく、既存の枠に分類されないまま独自のスタイルで有機物を吸収して生きる」という生態が、あまりにも現在の僕のライフスタイルと完全に一致していたからである。
僕は人間社会という原初の森の中で、一応、正社員としてアプリ開発の現場に生息してはいるものの、実態はバリバリのITエンジニアというわけでもなく、かといって完全に我が道をゆく異端児という枠にも収まりきらない、絶妙に分類困難な独自の系統を歩んでいる。
夜になればスーパーの割引シールが貼られた弁当(有機物)を静かに分解して吸収し、マイペースに命を繋いでいる。
僕は典型的な企業戦士などではなく、プロトタキシテスだったのだ。
唯一の違いは、あちらが高さ8メートルという威風堂々たる巨体を誇っていたのに対し、僕の存在感はせいぜい8ミリ程度しかないという点だ。
僕は急いで弁護士の先生に電話をかけた。
「先生、僕はプロトタキシテスでした。でも高さが8メートル足りません!」
すると先生は、「今すぐ南口のドトールに来い。4億年前の空白を埋めるための、太古の管状構造エキスを、特別に6万8千円で譲ってやる」と言って電話を切った。
ドトールで先生から受け取ったそのエキス(賞味期限の切れたポン酢)を飲み干しながら、僕は4億年前の風景に思いを馳せた。
高さ8メートルの巨体が、誰にも分類されないまま、原初の森にただ一本ポツンと立っている姿。
それは圧倒的な孤独であっただろうし、圧倒的な自由でもあったはずだ。
僕は、既存の何者にも分類されない自分という存在を、誇りに思おうと決意した。
ポン酢の強烈な酸味でむせ返り、涙と鼻水を流しながら、僕はドトールを飛び出して、8メートルの視界を手に入れるために目の前の電柱によじ登ろうとした。
しかし、通りすがりの割と大きめの犬に激しく吠え立てられたので、大慌てで電柱から飛び降り、そのまま岐阜県に向かって走り出した。




